出た卦は 「水雷屯」!どう解する?

 「いやぁーいつものことだけど少しも利益が出なくて困ったよ」とぼやきながらD氏が入ってきて、何時もの止まり木(丸椅子)にちょこんと腰をのせた。
 ここは、情報塾という喫茶店 、店内は左側にカウンターがありそれに添って7つほどの丸椅子が並んでいる。右側には4人掛けのテーブルが4組程等間隔に並べてある。
 奥の方のテーブルには、中年の女性がひとり人待ち顔に座っている。もう一つのテーブルには、若い男女が同じ側の席に座って、運ばれてきた飲み物には目もくれず、何か夢中になって話し込んでいる。マスターは相変わらずカウンターの右側の奥で、静かにグラスを磨いていたが、入ってきたD氏を見ると例の少しはにかんだような笑顔をちらっとむけて、何も言われないのに、馴れた手つきでホットコーヒーを入れるとD氏の前に静かに置いた。
 カウンター席には常連の、F氏、K氏がすでに来ていて自分勝手に決めた自分の椅子にちょこんと座って雑談にふけっていたが、D氏が来たのを見ると雑談をやめてにこにこ顔でそれぞれ会釈をした。
 D氏は、電気工事業で主として電気の配線工事を某大手の工事業者の下請として社員を5~6人抱えている小事業主である。
 F氏「ハハハ相変わらずですな、不景気はいずこも同じですよ」D氏に笑顔を向けながら軽く受け流した。F氏は、某自動車メーカーの部品の一部を製作している4次下請位の製造会社の社長で、すぐ近くに小さな工場あり社員4~5人程で自分も工場で一緒に働いているが、時々抜け出してはこの「情報塾」に息抜きに来ている。
 D氏「Kさんのところは今景気がいいでしょう、近くに工事現場が幾つかあるし、お昼時には大忙しなのではないかな」話しかけられたK氏は、なかなかといった感じで首を振って、「近頃は食材が高騰して来ているし、かといって値上げは出来ないし、忙しいだけで利益はさっぱりですよ」とため息交じりに答えた。K氏はこの近くに小さなレストランを開いるが、レストランといっても、ラーメン、蕎麦、カレーライス、カツ丼等何でもありで「食堂」と言った方が適切かも知れない。お昼時が一番忙しく、夜までの束の間の休憩をこの「情報塾」で過している。

 「それにしても変な世の中になってきたな、全然先行きが見えないよ」又D氏がぼやく。 そこへE氏がやってきた。彼は貨物自動車運送業で、建設現場の残土や廃材等を主として運んでいる。やはり社員7~8名の小さな会社の事業主である。彼は先着の3名に会釈するとやはり自分で決めている(自分の)席に腰を下ろした。マスターはなにも聞かないでE氏の飲み物を作り始めている。
 「本当にDさんのいうとおりですな、運賃の単価は上がらず、ドライバーを募集しても応募は無し、もう廃業かも知れませんね」何となく投げやりな調子で誰にともなくつぶやく。常連の3名は改めて考えるという様にそれぞれうなずいている。
 「国は総理大臣の、森友、加計問題、文書改ざん、元秘書官の虚偽発言等々、国民を無視して自己保身に汲々としている」とF氏がいう。
 「働き方改革とかいって、現行法律の40位を改変するらしいが、我々の商売は雨が降ったら出来ないんだ、机上論では生活は成り立たないよ」D氏がぼやく。

 「外交では、隣国(韓国、北朝鮮、中国)等に先を越され、存在を無視されて何をするにも蚊帳の外、そのうちどこの国からも相手にされなくなるよ」とE氏が憤慨する。

 「食料にしても、自給率は39%位でほとんど輸入に頼っている、こんな状態では各国に足元を見られ、価格をつり上げられるか、自国を優先して輸出しなくなるかも知れないね」K氏は先行きが悲観の材料しかないといった面持ちでいう。

 「我々零細企業はどうなるのかなぁ」全員が打つ手なしといった様に何となくマスターの方を見る。
 マスターは全員の視線を感じ取ると、磨いていたグラスの手を止めて常連の方に目を向け、何時もの少しはにかんだ様な笑みを浮かべると小声で言った。
 「私は久しぶりに昨日「易」を立ててみました」皆は少し驚いた表情で顔を見合わせた。 ここのマスターが博学で国学に詳しく、詩歌、芸能に通じているということは何となく解っていたが、易にも詳しいとは知らなかった、と改めて思ったのである。

 「出た卦は、水雷屯(スイライチュン)でした」これは四大難卦の内の一つです、とマスターは言った。
 「どんな意味があるのですか」とKが聞いた、他の者も固唾をのんでマスターを見つめている。
 「私は易に関しましては、素人の前にドの字がつきます」と照れ笑いしながらマスターはいった。
 「意味というか解釈と言いますか、プロの方々や研究家のあいだでは、色々な解釈があるようですが、周易の起源は自然を配したものと聞いております、ですから文字のとおりに解釈すれば良いのです。これは「水と雷が留まっている」と考えてください。水は、豪雨、河水の氾濫、土砂崩れ、田畑の水害等を引き起こし、雷はそれを助長します。もの凄い雷が轟きゲリラ豪雨が容赦なく襲ってきている事を想像してみてください。これはもう私達がどうあがいても何とかなるものではありません。なまじ動き回れば反って被害が増大します、何処かに身を潜めてじっと雷雨の止むのを待つしかないのです。

 政治は混迷を極め、社会的モラルの崩壊による、殺人、誘拐、詐欺等の犯罪が増加し、団体としてのルールを教えられなかった人達の自己中的な行動等々、この国の秩序は乱れきっているのです。でも雨は必ず止み、雷は必ず収まります。それまでじっと待つのです、他人の行動に釣られて動き回ってはなりません。自己を見失う事なく静かに時期を待つのです。
 必ず機会はやってきます。そのチャンスをのがさず行動してください。くれぐれも付和雷同に注意してください。」

マスターは話し終えると、例の人懐こそうな笑みを浮かべて常連客にうなずくと又、自分の定位置に戻った。皆は何となく気持ちが落ち着いて心が軽くなるのが感じられた。D氏は改めてつくづくとマスターを見やった。何という見識を持った人なのだろう、諸葛を欺き大楠公を走らす才知を持った世が世なら歴史にその名を残す人かも知れない、惜しむらくは天の時を得られなかったか、過去においてもこのマスターの予見は外れた事がなかったように思われた。

「今日は良いことを聞いた、さて戻って社員を帰して晩飯まで又一仕事するか、今日は来た良かったよ」といってF氏は外に出た。
 時刻は夕方の5時を回った頃か、晩春の宵はまだ明るく遙か遠くの山並みから徐々に夕闇が迫って来ていた。明日も又晴れ、そして今日と同じような日が続くだろう、徐々に徐々に向上しながら、、、。

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