可哀そうな一人暮らしのお爺さん

新型コロナウイルスが猛威を振るっている最中、コロナの感染が確認(陽性)され、自宅療養している一人暮らしの高齢者が孤独死する事が多発している。
多数家族でも、子供が成長して親元を離れていき、ついには両親だけとなり、配偶者のどちらかが亡くなられて一人暮らしを余儀なくされる、離婚して子供と二人暮らしだったが子供が独り立ちして一人暮らしになる、離婚して一人暮らしになる、親元を離れて一人暮らしをする等々、高齢者でなくても一人暮らしをする理由は多くある。

私の知合いに変わった老人(爺)がいる。妻とその妹、子供2人の世帯だが、彼はなぜか家族嫌いで一人暮らしを好んでいる。したがって同じ屋根の下には住まず、同敷地内にある小さなマンションの一室に住んでいる。
高齢だがいまだにある小さな企業に勤務している。その企業では可哀そうなので、仕方なく無理のないように適当な仕事を与えているが、それでもやはり疲れるらしく、夕食だけは奥様に運んで貰っているという。そして休日の前夜と休日は自分で食事を作って食べているとのことだ。

先日偶然にもJRの最寄り駅を降りたところでばったり顔を合わせた。どちらが誘うともなく近くの喫茶店に入って二人ともコーヒーを注文し、改めて顔を見合わせ苦笑を交わす。言葉のつなぎに一人暮らしの様子を聞くと次のようなことが返ってきた。

私は一人暮らしを楽しんでいるよ。暇潰しには読書とテレビが主だけどね、どちらも難しいものはだめだがね、テレビなどはアニメ、陽気なドラマ、本は推理もの、ユーモア物が多いね、頭を空にできるのがいいし休まるよ。

それに勤務先までの通勤もまた面白い。今はコロナウイルスが怖いけど、それを除けば悪くはない。電車内でもスマホなどやらないで、いろんな人を観察できる。人間は哺乳類だから、やはり哺乳動物に似ている人が多いね、豚、猿、キツネ、タヌキ、ブルドッグなど、たまに魚顔も見かける、さすがにホオジロやダイオウイカに似ている人はいないが、以前ニワトリにそっくりな人を見かけたことがある、これ等の人々がいろんな動作をするので、これもまた面白い光景に遭遇できる、退屈しないよ。

しかし、買い物は大変な時がある、最近までは下半身に着る(着ける)ものを、パンツ(猿股)、ズボン下(ステテコ)、ズボンに分かれていたと思ったが、今はすべてがパンツになっている。しかもその前に、チノ、ショート、バミューダ、カプリ、サブリナ等々がつく、何が何だかわからい。又小売店もほとんどない、皆通販らしい、こうなってくるとお手上げだ。他の生活必需品を購入するのも大変なんだ。
自分で料理するのに食材を買わなければならないだろう、コンビニやスーパーに行って購入するのだが、買うのが人参1本とか、魚1パックとか一人前の物ばかりなのですぐ一人暮らしだとわかってしまう。
特に金曜日の夜なんか、スーツ着てカバンもって買い物だろう、お店の店員が気の毒そうな目で見ていることも多々あるよ、でも店員によっては親切な人もいて、レジ係が使うビニールの袋を黙ってかごに入れてくれたり、箸とスプーンを両方入れてくれたりすることがある、人を思いやる心の人達がまだまだいるということだ、まあこの国も捨てたものじゃないさ。
彼は話し終わると冷めかけたコーヒーを飲み干して、満足そうにひっひっひと笑った。私達は店を出て、駅前の交差点で別れ帰宅の途に就いた。

彼は本当に満足しているのだろうか、家に帰るというよりたどり着くという表現のほうが正しいだろう。コロナウイルスが蔓延していて、高齢者の死亡者が毎日増加しているのにまだ仕事に出かけなければならない境遇を、家族はどんな気持ちで見ているのか。彼の同級生は約半数が他界されていて、生存者の中には、特養に入っている者、認知症で介護を受けている者もいるという。

運よくコロナから免れても、どんな死病に取りつかれることやら、先が短いことは間違いない。家路に向かう私の足取りは重かった。

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