喫茶「情報塾」にあるもの

 喫茶「情報塾」のマスターに会ったのはいつ頃であっただろうか。ずっと以前からの知り合いのような気もするし、それ程前でもないような気もする。たしか、ある日散歩していて、変わった店名の喫茶店だったので、ついふらっと入ったのだった。ドアを開けて中にはいると、テーブル席が10席くらいと、14~15人位座れるカウンター席が設けられているそれ程広くない店だったが、程良い調度が整然と品良く整っていて、

柔らかな照明が落ち着いた感じを醸しだし、ボリュームを絞ったボサノバの音楽が耳に心地よく、ほっと心温まるような雰囲気の店であった。

 お客は、テーブル席のほうに、恋人同士らしいカップルが奥の端に座って居て、中程のテーブルには、近所のおばさまらしい4人連れが何かはなしては時々大声で笑っていた。私が入ってきた気配を感じたのだろう、右端のカウンターの内側に腰をかがめて何かを見ていたマスターらしき男性が顔を上げて私のほうを見た。

 彼は、初老の中肉中背で特徴と言えるほど変わったところは無かったが、目は生き生きとした精気が宿っていて、私を見つめた瞬間鋭い眼光が私の全身を貫いた。おそらくやましい心の持ち主ならそれを見透かされたと思っただろうし、疲れた人なら何となく心が癒されると感じただろうし、悩みを抱えている人なら思わずうち明けてしまいたくなるような眼差しだった。しかし、それも一瞬の事で、彼は私が勘違いをしたのではないかと思われるほど、打って変わった柔和な表情になっていた。彼は黙って「いらっしゃいませ」というように、私に会釈すると厨房の中程まで進んできた。 私は、カウンター席に腰を下ろすと、ホットコーヒーを頼んだ。彼は、「はいっ」と小さく返事をして支度に取りかかった。その動作は滑らかで手際よく無駄がなかった。お待たせいたしました、マスターはコーヒーカップをソーサーごとカウンターの上にのせた。何とも言えない高貴な香りがあたりにただよう。

 私はなぜか焦って、コーヒーカップに手を伸ばした際にガチャっとカップをゆらせて、中身を少しこぼしてしまった。コーヒーはソーサーとカウンターにも少しこぼれた。マスターはそっと素早く近づいて来て、ソーサーごと持ち上げ手際よくカウンターを拭いた。お取り替えいたしましょう、とそのままカップを流しに置いて新しくコーヒーを入れ始めた、私は少し狼狽気味に、いやそのままで結構です。と言ったが、マスターはいえお気遣い無く、とか何とかいって恐縮したような照れたような曖昧な笑みを浮かべた。

 この日の何げないやりとりから、いつのまにか常連みたいになっていったのだ。ここは、夜はちょっとしたカクテルや、ビール、ワインも飲めるのである。酔いに任せて、マスターに話しかけてみると、、。そのお話は、また次回。

『常連H氏のつぶやき』

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